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【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2015/10)―Dance New Air プレ公演 サイトスペシフィックシリーズvol.1『“distant voices – carry on”~青山借景』

ひとつだけ

2015.09.30


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?

2015年10月 藤原ちからの“ひとつだけ” Dance New Air プレ公演 サイトスペシフィックシリーズvol.1『“distant voices – carry on”~青山借景』
2015/10/10[土]~12[日] 東京・青山スパイラル

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演劇が劇場を飛び出すこと、そして電車やバスの中、あるいはカフェみたいな、日常生活と地続きの空間で行われることは、もはや珍しいことではない。「借景」や「サイトスペシフィック」という言葉も、演劇やダンスの現場ではしばしば使われている。

わたし自身、『演劇クエスト』という屋外を歩く作品をつくっているので、こうした「外に出る」傾向が時代の趨勢のひとつであり、社会的なニーズもある、ということは身に沁みて感じている。

けれど、こうした「外に出る」傾向は、芸術や演劇の退廃とも紙一重である。劇場の中に比べると観客は集中力を欠きやすいし、パフォーマンスの強度を保つのも難しい。計算した演出をしたいなら、不確定要素の多い屋外よりも、環境をつくりこめる劇場内のほうが圧倒的に有利だろう。さらには観光や町おこし、治安向上、教育、フェスの動員への貢献など、様々な社会的要請に晒される。芸術への理解があるとはかぎらない人々との交渉も時には必要になる。恐れる必要はないが、生半可な覚悟では手を出さないほうがいい領域だとは思う。

その点で、今回の『青山借景』のコンセプト&演出を担うハイネ・アヴダルと篠崎由紀子のコンビは信頼できる。ブリュッセルとオスロを拠点とする彼らは、日本でも岡田利規や柴幸男といった演劇作家と組んで『横浜借景』をつくったことがある。1970年代の寺山修司の市街劇以降、日本ではほとんど日の目を見なかった、あるいは無視されてきた「外に出る」演劇の系譜に、一石を投じたと言ってもいいのではないか。2人は去年の春に来日し、森下スタジオでワークショップを開催した。その時のレポート(※)にも書いたように、彼らが提唱する「Borrowed Landscape」は、単なる「手法」の域を越え、「思想」として培われたものだった。

※「Borrowed Landscape は思想である——新しいダンスと演劇のために」

数日間のワークショップを通して感じたのは、「Borrowed Landscape」は単に外の風景を借りるための手法ではないということだった。わたしの解釈では、それは自分も含めた世の中のあらゆる物体を「不完全な存在」……つまり100%完璧じゃないからこそ他者の入り込む余地があるものとして捉え、その外側にある環境を取り込んでいく。彼らはそのための様々なバリエーションを、実際に身体やモノを使って探っているのである。

今回は出演者も、この組み合わせはなかなか見られない、という魅惑のダンサーたち。エキストラにも、どうやら面白い人たちが何人か紛れ込んでいるようだ。インスタレーションを担当する梅田哲也は、この夏、横浜・本牧の旧映画館の空間を見事に使い、記憶に残る作品をつくった人物でもある。

今作がいったいどの程度「外に出る」のかはわからない。ともあれ、おそらくは街路をえんえん歩いていくような種類のものではないだろう。劇場の中か外か、は実はそこまで大きな問題ではないのかもしれない。大切なのは、そこにどんな思想が息づいているか、ではないだろうか。さて、彼らは「Borrowed Landscape」という思想によって、いったい東京・青山の地で何をつくりあげるのだろう?

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