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【連載】ひとつだけ 徳永京子編(2016/7)― マームとジプシー『0 1 2 3』

ひとつだけ

2016.07.7


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?
   
2016年7月 徳永京子の“ひとつだけ” マームとジプシー『0 1 2 3』
2016/7/23[土]~8/4[木] 京都府・元・立誠小学校

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 食指の動く公演がありすぎて、スケジュール組みに贅沢に悩むこの7月に、毎月のように作品を、また、小さくない計画を次々と発表し、動員も注目度も高値安定しているマームとジプシーを採り上げなくても、とは思う。
 けれど、一向にスピードを落とさず、ますます領域を広げている彼らを、定点観測的に言葉にすることは重要だと感じている。客席にファッション業界の人が増えても、沖縄や福島という文脈で語られることが増えても、マームのへその緒が演劇とつながっている限り(それが切り離されることはおそらくない)、演劇の言葉で彼らを語ること、彼らの拡大に合わせて演劇の言葉を更新していくことは必要だ。

 マームの創作スタイルは以前から、過去も未来も横も上下も飲み込んで作品と自身を大きくしていく、いわばアメーバ状のものだった。
 抽象的なテーマやモチーフの話ではなく、具体的な作劇術として、作品を単体で考えず、藤田貴大の創作活動全体を、出会う人を含めて無駄なく合体させていく壮大なアートワークの連続体がマームなのである。
 新作なら、過去につくった作品の設定や人物を引き継ぎ、再演なら、俳優の近況を反映させ、また、先々に予定されている作品の課題を先取り──たとえば2014年、『マームと誰かさん』シリーズで歌人の穂村弘と組んだ理由のひとつに、翌年に『書を捨てよ町へ出よう』で寺山修司の言葉に取り組むことがあったり──してきた。あるいは、かねてから交流のあったファッションブランド、ミナ ペルホネンが衣装を担当した『書を捨てよ』では劇中にファッションショーを組み込んだり(これは、幅広いジャンルの才能に興味を持ち、それらをコラージュする天才だった寺山への藤田からのオマージュでもある)、さらにそれが、マーム出演者がミナの服のモデルとして雑誌掲載されるという展開にもなった。

 こうした活動は、もしかしたら運の良さや行き当たりばったりに映ったかもしれないが、これからはマームが目指す方向性が徐々に明確になっていくはずだ。
 その理由は、6月に22人のメンバーが決定した「ひび」という画期的なプロジェクトがスタートしたことにある。マームの作品に“何らかの形”で関わりたい人を公募し、採用された人はさまざまなワークショップを受け、実際に創作を手伝いながら、1年後に作品を発表するというこの取り組みは、ジャンルを限定しない才能を募集する点で、総合芸術である演劇の本来性に合致している。そして、劇団員でもユニットメンバーでも師弟関係でもない点に、旧来の演劇のしがらみから離れた自由度がある。マームが進めるアメーバ状の活動が、いかに有機的で枠のないものを目指しているかが、「ひび」によって可視化されることだろう。
 そしてこの新しい関係のつくり方、創作の姿勢は、当然、「ひび」以外にも発揮される。今年に入って過去の作品を次々とリクリエイトしたり、大がかりなオーディションをいくつも行なっていることはその表れに違いない。
 『0123』は、吉田聡子の「1」人芝居、青柳いづみと青葉市子による「2」人芝居、青柳と吉田と川崎ゆり子の「3」人による『カタチノチガウ』、そして「0」は出演者のいない展示という形で、もともと小学校だった会場を生かし、ひとつの建物の中の複数の場所で上演される。「0」と「1」と「2」は新作、「3」は何度目かの再演と、貪欲なアメーバらしく、たくらみの多い内容になっている。マームを知っている人にも、初めて観る人にとっても、かなり楽しい内容だと思う。
 さらにこの公演の会期中である7月30日と31日は、同じ京都の京都芸術劇場 春秋座で、オーディションキャスト18人と川崎による新作『A-S』も上演される。つまり藤田は京都で3本の新作を同時に発表するわけで、止まらないそのエネルギーは、やはりオンタイムで触れていたい。


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マームとジプシー

藤田貴大が全作品の脚本と演出を務める演劇団体として2007年設立。同年の『スープも枯れた』にて旗揚げ。作品ごとに出演者とスタッフを集め創作を行っている。同じシーンを高速でくり返すことで変移させていく「リフレイン」の手法を用いた抒情的な世界で作品ごとに注目を集めている。2011年6月〜8月にかけて発表した三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。また、2012年より様々なジャンルの作家との共作を発表。2013年沖縄戦に着想を得た漫画家・今日マチ子の傑作「cocoon」の舞台化に成功。2015年「cocoon」の再演にて沖縄含む全6都市にて巡演。 ★公式サイトはこちら★