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【連載】ひとつだけ 徳永京子編(2016/1)―ハイバイ『夫婦』

ひとつだけ

2015.12.31


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?

2016年1月 徳永京子の“ひとつだけ” ハイバイ『夫婦』
≪東京公演≫2016/1/24[日]~2/4[木] 東京芸術劇場 シアターイースト
≪福岡公演≫2016/2/13[土]~14[日] 北九州芸術劇場 小劇場

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* * *

 期待と心配が半分ずつ。少し複雑な気持ちでこれを書いている。

 心配の要因は、この話が作・演出の岩井秀人の両親をモデルにしていて、岩井が父親の死をきっかけに書くことにしたという点。ハイバイの代表作のひとつ『て』に登場する、暴力的で身勝手な父親のキャラクターと、彼をそれぞれの方法で憎む家族の姿が、岩井家のほぼスケッチであることは有名な話で(『て』は再演を繰り返しており、ハイバイはアフタートークに積極的で、岩井自身が隠すことなくその話をする)、岩井の父親に対する感情は相当にネガティブなものだった。自身が子供を持って父親になっても、岩井は父親と和解することなく、それどころか、かつてされたことや言われたことの痛みや恨みが薄まることもなかった。
 だから2014年秋に、父親が亡くなってどこかが解放されたのかと思えばそうではなく、死因が医療ミスだった可能性もあって、むしろその死後、父親に対する関心や執着が高まり、その人生を追いかけているらしい。

 この距離感が、果たして劇作にいい結果をもたらすのか──。長い間、憎しみだと思い続けてきた感情が、それだけではなかったと発見した時、また、違うものが混じり始めた時、岩井はそれを冷静に、あるいは興味深い対象として戯曲に落とし込めるのかを、余計なお世話ながら心配してしまうのだ。

 一方で、レバートリー化の厳しいハードルを超える新作がそろそろ生まれる頃だという予感がする。ハイバイは、新作は2年に1本程度で、旧作を繰り返して上演するスタイルを持つ。キャストが変わったり、行ったことのない土地で上演したりと、新しい挑戦はその都度あるにしても、特定の作品に愛着があるのか、ただ再演という作業が好きなのか、とにかく練り直す。その対象によく採り上げられるのが『て』『ヒッキー・カンクーン・トルネード』、これら2作を追いかける形で『霊感少女ヒドミ』がレパートリーだが、いずれにしても2010年以前の作品ばかりで、岸田國士戯曲賞を受賞した『ある女』ですら、岩井の再演リストには今のところ入っていない。
 同じ戯曲をさまざまなアプローチから検証していくのは、劇作家、演出家、スタッフ、観客のいずれにとっても大切で、私も『て』や『ヒッキー〜』を観る度に発見があるが、そろそろ新しい展開があってもいい頃だ。

 また、自分のことや家族のことを、痛みと笑いのフィルターに通して名作を生んできた岩井のこと。ラスボスである父親と対峙することで(退治ではない)、今までとは違うハイバイ流家族劇を見せてくれるのではないか。

 何よりも単純に、ハイバイの新作を待ちかねてしびれを切らしていた。早く新しい物語を私にください。

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ハイバイ

2003年に主宰の岩井秀人を中心に結成。相次いで向田邦子賞と 岸田國士戯曲賞を受けた岩井が描く、ありえそうでありえないそんな世界を、永井若葉・平原テツ・上田 遥・川面千晶といった外部公演でも評価の高いクセ者たちのおかげで「ありそうだぞ、いやこれが世界そのものだ」って思わせる舞台を展開。代表作は 「ヒッキー・カンクーントルネード」「て」「ある女」。★公式サイトはこちら★