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【連載】『演劇のドアが開いた日』第1回・波多野伶奈

演劇のドアが開いた日

2026.08.10



その日、ひとつの作品が、人生の景色を変えた。
俳優たちは、どんな舞台に出会い、どんな思いを胸に、演劇のドアを開いたのか。
それぞれの“はじまりの日”を、自らの言葉で綴る連載です。


第1回・波多野伶奈

中学一年生で東京から長野へ転校した私は、だだっ広い空にも同級生にも慣れることが出来ず、漫然と毎日を過ごしていました。東京の友だちとは次第に連絡が取れなくなり、美大を目指して通っていた絵画教室もやめるしかなく、出かける場所のない田舎での生活にそのうち外に出るのもしなくなりました。これまで自分を支えていたものが自分を置いてどんどん遠ざかっていく、それなのに何もできない自分に悔しさを堪え続ける日々でした。

そんな時に母に連れられた地元公民館での茅野市高校演劇フェスティバルにおける茅野高校の凱旋公演『東京ローズ 私の言葉に翼が生えて』(作:郷原玲)なんとなしに観たこの作品に私の人生は簡単に変えられてしまいます。軽快でありながらどこまでも希望を追う語り口、大音量のスウィング・ジャズに、ピンクとイエローの閃光。あっという間に心の隅々が物語で埋められて私の日々の退屈なんてどうでもよくなりました。世界で一番かっこいい。歳もあまり違わない高校生が世界一面白いものを作ってる。衝撃でした。観終わって劇場を出てみると外があまりにカラフルで、これまでの自分は視界をモノクロに感じるほど毎日に何もなかったのだと思い知りました。演劇がやりたい。どうしてもやりたい。田舎なので演劇に触れられる機会はあまりありませんでしたが、それからは公民館の掲示板で演劇情報を欠かさずチェックし、辛うじて見つけた地元のボランティアサークルで演劇をやってみて、それでも熱が冷めやらず進学先の高校で演劇部に入部して以降ずっと演劇を続けています。

そして、演劇の扉をもう一段階開いてくれた作品として紹介しなければならないのがアガリスクエンターテイメント『ナイゲン』です。この作品と出会ったのは、演劇部の部室にあるDVDコーナーでした。顧問の先生の観劇趣味が高じて、山奥の学校とは思えないほど東京の小劇場作品のDVDが揃っていました。その中から先生に勧められて観た『ナイゲン』。これが世界一面白かった。こんなに腹抱えて笑えるものがあるのかと、擦り切れるほど見て部員にも家族にも見せました。東京に行けばこれがある!東京に行くしかない。観たい公演があると片道4時間かけて地元から下北沢まで観劇に出かけていたのは良い思い出です。
それから上京して何作品も沢山の観劇をしましたが、この二作品に関してはいつまで経っても色褪せず、私にとって大きな憧れの作品です。演劇のドアが開いた日、あれから10年以上経ちますが、私は今もずっとあの日を追いかけ続けています。

次回、第2回目の「演劇のドアが開いた日」は、南極・端栞里さん。飛ぶ星のような憧れの俳優さんです。しおりちゃんよろしくお願いします!

<プロフィール>

波多野伶奈(はたのれな)。東京都生まれ長野県育ち。スコッド所属の俳優。
出演代表作は、かるがも団地『意味なしサチコ、三度目の朝』(2025)、コンプソンズ『岸辺のベストアルバム!!』(2024)、画餅『ホリディ』(2023)、いいへんじ『器』(2022)。近年は映像への出演にも幅を広げ、映画『アジアのユニークな国』(山内ケンジ監督作)に出演。演劇ユニット「チャミチャム」の公演を定期的に主催している。
事務所HP:https://www.squ-ad.co.jp/talent/hatano.html
X:@venus_jesus07

<お知らせ>
次回出演:
モメラス『薄闇、そこは散漫もしくは出口』
2026年10月15日(木)〜10月18日(日)
会場:水性
モメラス公式HP:https://sites.google.com/view/momeraths/top?authuser=0

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