【連載】『演劇のドアが開いた日』第2回・端栞里(南極)
演劇のドアが開いた日
2026.09.10

その日、ひとつの作品が、人生の景色を変えた。
俳優たちは、どんな舞台に出会い、どんな思いを胸に、演劇のドアを開いたのか。
それぞれの“はじまりの日”を、自らの言葉で綴る連載です。
第2回・端栞里(南極)
高校2年の夏休み。毎日蒸し風呂体育館でバレーボールをしていた私たちに、突然三日間の休みが与えられた。どうしてかは忘れたけれど、何か致し方ない理由だった気がする。家族旅行にも参加できないくらいのみっちりスケジュールだったので大歓喜。この休み、絶対に有意義に使わなくてはならない!
…ここで私は、“演劇”を見に行こうと決めた。何を食ったらそんな発想になるんだと思うけど、これには明確な理由がある。
私はちいさい頃から本気で俳優になりたいと思っていた。だけどどうしても恥ずかしくて、周りにはひた隠し。ただただ、テレビで活躍する子役やアニーのオーディションを見て、嫉妬に狂っている子どもだった。でも、高校2年生17歳。私もみんなも大人にさしかかっているし、そろそろ演技、恥ずかしくないのでは…?周りのみんなも笑ったりしないのでは…?と思い始め、え〜大学では演劇サークルにでも入っちゃおうかな〜なんて考えていたのだ。そこでワタクシ閃き!大学になったら入るかもしれない演劇サークルの下見に行こう!ちょうどいいやん!なんて有意義!私は演劇を調べ始めた。行く大学は決まっていたのですぐに演劇サークルの目星がついた。が、そんなにちょうどよく公演はしていなかった。が!その演劇サークルのOBが立ち上げた劇団の公演がちょうど明日開幕だった!善は急げ、すぐさま予約。
電車を乗り継いで、見知らぬ駅に降り立ち、劇場を目指した。そうしてたどりついたのはなんか暗い路地。チラシを持った人がその路地の前に立っていた。いや怖すぎる。絶対に私が来るところじゃなかった、友達しか来ちゃいけなかったんだ、と心臓がバクつきだして、とりあえず一旦通り過ぎる。そこから脳みそフル回転。路地の前を3往復した。本気で帰ろうかと思ったけど、色々検索して、友達しか来ちゃいけないなんてことはなさそうだと分かったし、この休みを台無しにするわけにはいかなすぎるから、意を決して路地に入る。受付で高校生料金の500円を支払い、場内へ。小さな円を、たった2列の客席が囲んでいた。全部で30席くらい。小劇場なんて知らないから、勝手に体育館みたいな大きなステージを想像してしまっていた。とにかくその場で起こる何もかもに心臓が飛び出しそうになりながらも席に座り、開演を待つ。演目は、黒澤世莉さんの『衝突と分裂、あるいは融合』。劇が始まり、終わる。放心状態。骨抜き。おもろすぎる。ありえない。熱い、体が熱い。知り合いなんてもちろん一人もいないから、演技してるなとか思わなくて、そこに、その人が、いた。いて、喋っていた。苦しんでいた。いた。
前のめりに動悸。
劇場を飛び出てまず一番最初に思ったのは、これが500円なのはヤバイ。じきに値段なんてどうでも良くなってくるのだが、最初の衝撃はそこだった。映画の半額。なんで今まで気づかなかったんだと本気で後悔した。興奮真っ只中のその手で検索し、次の日の演劇のチケットを取った。それが柴幸男さん『わたしの星』大阪公演。そしてまた次の日もチケットを取った。とある演劇サークルの新人公演、野田秀樹さん『赤鬼』。私の人生において、とても神聖な三日間だった。今でも容易に興奮できる。
そこからは毎週のように演劇を見た。観劇アカウントも作った。この三日間以降、関西で見た演劇は、ほぼ全て感想をUPしている。それがそのまま今のアカウントなので、演劇を見始めたばかりの17歳が、どうにか興奮を伝えようと一生懸命書いている140字が山のように残っている。宝物だけど恥ずかしいので絶対に遡らないでほしい。
もちろんすぐに出る側もやりたくなって、高校3年生の時に大学生に紛れて俳優を始める。部活の後にヘトヘトで稽古に通ったけど、楽しくてしょうがなかった。バレーのことなんて頭からすっぽり抜け落ち、演劇一色になった。それが、今の今まで、何に取って代わることもなく、ずーっと続いている。7年前のあの日から、劇を見なかった月はほとんどないと思う。
演劇をやることは、いつまでやるのか、やれるのか分からないけれど、観ることは、きっと死ぬまで続けるんだと思う。私にとって1番大切な営み。
人生最初の1本が面白かったことに、心から感謝している。
次回、第3回目の「演劇のドアが開いた日」は、徐永行くんです。よろしくお願いします!
<プロフィール>

端栞里(はたしおり)。南極の劇団員。
2023年から東京を拠点に活動をしており、舞台だけでなくCM・ドラマと活動の幅を広げている。2024年10月期NHK夜ドラ「未来の私にブッかまされる!?」に出演。2025年、自身の企画として、「端栞里と高熱」を立ち上げ。これまでに2回の公演を行っている。
事務所HP:https://www.decadeinc.com/shiori-hata/
X:@shiori_8da10
<お知らせ>
次回出演:こんにち博士監督
映画「チャオ・ヤングの墓」
9/18金〜テアトル新宿にてロードショー
公式HP:https://chaoyoung-ohaka.com/



