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【純粋配信舞台レビュー】ケダゴロ『ビコーズカズコーズ Because Kazcause』

舞台とあう、YouTubeで。

2022.03.20


撮影され、編集された演劇やダンスやパフォーマンスを観てレビューを書く──。ライブ原理主義の人には許せない行為かもしれません。けれども、かつてNHKで放送されていた「芸術劇場」で生涯忘れられない観劇体験をした人は数え切れず、あるいは、学校の部室や図書館にあったビデオやDVDで名作に触れて演劇を志した人も大勢います。それなら映像による舞台作品に評があっても良い。部屋で観て部屋で書いたレビューが読む人を動かせると信じます。

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無防備で生々しい8つの身体。渦巻く熱量があばくものとは──ケダゴロ『ビコーズカズコーズ Because Kazcause』

私道かぴ(作家、演出家)
@NnShido

配信視聴はこちら( https://www.youtube.com/watch?v=T1DIgxhYMoU&t=244s )

■「8人の福田和子」の異様さ

誤解を恐れず言うと、『ビコーズカズコーズ Because Kazcause』に出てくる身体はまったくきれいではない。むしろ雑多で、きたない。ぎょっとする。
舞台上に投げ出された身体が、あまりにも無防備で生々しすぎるからだ。

今作には、8人の福田和子が登場する。
この8人が一緒の女性を演じようとしていない様子が、最初は異様に映った。振り付けはされているものの、其々の動きのタイミングや角度が若干ずれる。表情の機微など細かい部分も統一されておらず、ちらちら目につく。「なんで方向が若干ずれてるんだ!」とか、「どうしてぴたっと揃わないんだ!」とか思う。観客が「ダンサー」に求める優雅な動きとか、キレとか、惚れ惚れしたい気持ちを安易に叶えてくれないのだ。

しかし、時間が経つにつれて、真意がじわじわ見えてくる。
中盤、福田和子を演じる8人の身体たちが一斉に「空中を走る」時、その効果は最高潮に達する。
ダンサーたちの表情が、実に多種多様なのだ。
したたかな女の顔、不安気な女の顔、つらそうな女の顔、まるで何も考えていないような無心の女の顔……。
この時、観客ははっとする。いま目の当たりにしている身体は、紛れもなくすべて福田和子なのだと気付く。したたかでも、不安気でも、つらそうでもあり、かつ無心で走った一人の女性。すべての表情を、きっと福田和子はしたのだろうし、「逃亡」と一口に言ってもその時々に応じて様々な感情が渦巻いていたのだと思う。
私たちが思っているほど人間は単純でないことを、8人のダンサーを通すことによって、思い知らされるのだ。

■映像でも伝わる臨場感

そして、今一度自分の認識を省みる。
世間の作り上げた「福田和子=凶悪な殺人犯であり、逃亡犯」というわかりやすいストーリーや、「ダンサーは身体の美しさや素晴らしい動きを見せてくれるもの」という概念を信じていたことを反省する。
今作の怖いところは、こうした観客の隠れた思い込みや欲望を、生々しい身体と演出によって浮き彫りにしてしまう部分だと思う。

幸いなことに、その熱量は映像という形でも決して衰えていない。
会場の大きさも功を奏して、イヤホンをすると細部の音までよく聴こえ、まるでその場にいるかのような臨場感がある。画面越しという安全圏にいるにも関わらず、会場にいる観客と共にぎょっとする。イヤホンから漏れる声に緊張する。ダンサーの膝の骨がごつんと床に当たる音、観客のごほんという咳払い、酷使する肉体の息づかい、壁に反響して届く音の一つひとつに引き込まれる。

それは何より、会場で動き続けたダンサーたちの肉体の圧倒的熱量の賜物だと思う。身体を見せる、というよりは見せつける、視界に食い込ませるという表現が近いのかもしれない。ここまでの説得力を持った無防備な生々しさは、ダンサーと演出の相互理解がなければ、到底たどり着けない境地だと思う。「大胆」かつ「丁寧」なダンスの新境地が垣間見える、稀有な鑑賞体験だった。

視聴環境:PC&イヤホン



撮影:bozzo

ケダゴロ
『ビコーズカズコーズ Because Kazcause』
振付・構成・演出:下島礼紗(ケダゴロ)
出演:伊藤勇太、小泉沙織、中澤亜紀、木頃あかね、下島礼紗(以上ケダゴロ)、 大西薫、平田祐香、竹内春香、浅川奏瑛、鹿野祥平(東京乾電池)
2021年
小劇場B1

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しどう・かぴ/1992年生まれ。作家、演出家。「安住の地」所属。人々の生きづらさに焦点を当てた会話劇や身体感覚を扱った作品を発表している。身体の記憶をテーマにした『丁寧なくらし』が第20回AAF戯曲賞最終候補に、動物の生と性を扱った『犬が死んだ、僕は父親になることにした』が令和3年度北海道戯曲賞最終候補に選出された。国際芸術祭あいちプレイベント「アーツチャレンジ2022」において映像作品『父親になったのはいつ? / When did you become a father?』が入選。



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