演劇最強論-ing

徳永京子&藤原ちから×ローソンチケットがお届けする小劇場応援サイト

【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2015/8)―東京デスロック『Peace (at any cost?)』

ひとつだけ

2015.07.18


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?


Peace_omote[1]


2015年8月 藤原ちからの“ひとつだけ” 東京デスロック『Peace (at any cost?)』
2015/8/21[金]~23[日]アトリエ劇研(京都府)、8/29[土]~30[日]四国学院大学ノトススタジオ(香川県)

* * *

 戦後70年、日本が大きな転換点を迎えているこの夏に、東京デスロックの『Peace (at any cost?)』 がお目見えする。

 彼らはこれまでどんな演劇を上演してきたのだったか? 思い返してみると、壮大な歴史物語もあれば、かぎりなくダンスに近いものもあり、観客=参加者と一緒に儀式をつくりあげたり、あるいはただひたすら長い時間を共に過ごす……と実に多様であった。だがわたしが思うに、彼らはある点において一貫している。それは、自分や他者が今生きているこの場所を顧みて、その未来について考えていこうとする姿勢があるということだ。つまり彼らは、演劇を通して、過去・現在・未来についての「対話」を試みてきたのである。

 だから新作『Peace (at any cost?)』 も、きっと何らかの形で「対話」を投げかけるものになるだろう。なんといっても原作はギリシャ喜劇の『アカルナイの人々』である。ギリシャがペロポネソス戦争まっただ中の時代(紀元前425年)に書かれた戯曲で、敵国と1人で勝手に和平を築いた男が物議をかもす物語。つまりリアルタイムに起きている目の前の戦争について、その是非をアテナイ市民に問いかけるという、極めて「現代的」な内容だったのだ。

 これを書いたアリストパネスは、弁論術を駆使して権力を握った好戦的な政治家・クレオンを風刺したために国家転覆罪に問われた(今や他人事とも思えない)。そして現実の歴史ではそのクレオンが和平案を退け、長い戦争の末に結局アテナイはスパルタ連合軍に敗北。アテナイの共和制は崩壊し、以後、かつての輝きを取り戻すことは二度となかった。

 演劇は時として現実を浸食する。2440年前のギリシャ喜劇『アカルナイの人々』は、2015年の日本で『Peace (at any cost?)』 へと生まれ変わる。幸か不幸かこの作品は、たぶんとてつもなく「現代的」な演劇として姿を現すことになるだろう。

 劇団員が増え、平均年齢も一気に下がった新生・東京デスロック。さらには多田淳之介が高松市アートディレクターに就任してから最初の本公演となる。関東圏での公演は来年3月まで待たなければならず、しかもバージョン違いになりそうだ。わたしは京都か高松で目撃するつもり。

≫公演情報はこちら

CEREMONY2(ひとつだけ用_『CEREMONY』2014年7月STスポット_撮影:石川夕子)
東京デスロック『CEREMONY』より 2014年7月 STスポット【撮影:石川夕子】

東京デスロック

多田淳之介を中心に2001年より活動を開始。古典から現代戯曲、小説など様々な題材から現代演劇を創作する。 近年は現代社会を取り巻く問題を取り扱い、客席と舞台との区分けを無くし、観客を含めた事象をも作品化するなど、現在を生きる人々をフォーカスしたアクチュアルな劇空間を創造する。2009年より東京公演休止を宣言、2011年より「地域密着、拠点日本」を宣言し、各地域に根ざす劇場、カンパニーと共に地域での芸術活動を推し進める。2013年には4年ぶりに東京公演を再開。 2011年5月にはフランスジュヌヴィリエ国立演劇センターFestivalTJCCに招聘。2009年より韓国ソウルでの第12言語演劇スタジオとの合同公演を毎年行い、2014年には『가모메 カルメギ』が韓国で最も権威のある東亜演劇賞を受賞。演出の多田は初の外国人演出家による演出賞を受賞するなど、国内外問わず各地にて活動する。 ★公式サイトはこちら★