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【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2015/10)―アンジェリカ・リデル『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』

ひとつだけ

2015.11.1


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?


アンジェリカ・リデル『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』
11/21[土]~23[月・祝] 東京芸術劇場 プレイハウス(フェスティバル/トーキョー15 プログラム)

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注目の舞台が目白押しの秋。ここで紹介したい素晴らしい作品は他にもいくつかあるのだが、あえて「ひとつだけ」ということで、一生に一度の体験になるかもしれない、アンジェリカ・リデルの『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』を大プッシュしたい。去年、ドイツのマンハイムで上演された同作品を観ることができたのだが、わたしの記憶には、これまでの観劇体験の中でもとてつもなく美しく、また同時に最悪の光景として生々しく残っている。

母性への嫌悪や、老いや死をテーマにしたこの作品の後半、なんと3分の1ほどの観客がぞろぞろと席を立って帰ってしまった。途中退出が珍しくないヨーロッパにおいても、およそ3分の1の観客が帰るというのはいくらなんでもあんまりだ……。しかし隣にいたトルコ系とおぼしき男たちは興奮して、誰が帰ろうが自傷的・挑発的に毒を吐きまくる舞台上のリデルその人に熱い声援を送っていた。わたしも同じ気持ちだった。席に残った観客たちには、ある種、共犯関係とも呼びうる連帯感が生まれていたのである。カーテンコールが熱狂的な大拍手に包まれたのは言うまでもない。

この夜、リデルを目当てにわざわざマンハイムまで視察に来ていた横堀応彦さんと、終演後に町の給水塔まで歩きながら、この作品をもし日本に呼べたらきっと面白いでしょうねと話した記憶がある。今回の招聘はおそらく彼の尽力によるものだろう(横堀氏はその後、フェスティバル/トーキョー15ディレクターズコミッティに就任している)。作品や作家が海を渡る時、誰かがそこで暗躍(?)しているという事実も忘れないでおきたい。誰かが動かなければ実現しないことが、この世界には、まだまだいっぱいある。

さて、もちろん日本での上演において、観客の3分の1が帰るなんていう事態はきっと起こらない。しかし病的で、呪いのようなリデルが繰り出す怒涛の言葉が、観客席に対して牙を剥くのは間違いない。あなたはそれを苦痛に感じるだろうか? それとも、魂の奥底に秘めてきたあなた自身の「傷」に共鳴するものを感じるだろうか? しかしとにかく見てほしい、舞台の上を。国境や言語の壁を越えて、それでも何かをせずにはいられない人間の姿がそこにあるはずだ。

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