演劇最強論-ing

徳永京子&藤原ちから×ローソンチケットがお届けする小劇場応援サイト

【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2016/5)― 劇団子供鉅人『真夜中の虹』

ひとつだけ

2016.05.4


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?
   
2016年5月 藤原ちからの“ひとつだけ” 劇団子供鉅人『真夜中の虹』
2016/4/28[木]~5/1[日] 梅田 HEP HALL
2016/5/9[月]~15[日] 下北沢 駅前劇場

kodomo

大阪が嫌いだった。
道を歩けばヤーさんに当たるとか、大阪のおばちゃんに割り込まれるとか、どぎつい関西弁、けばけばしい景観、タレント政治家……そういう(偏見とも言い切れない)イメージの集積が、わたしを大阪からそこはかとなく遠ざけていた。ところが今や、西に行ったらわざわざ寄って、串カツ食べてドヤ街に泊まるくらいには、大阪、ええ町やな、おもろいな、と思うようになっている。なんでそんなに変わったのか? きっかけは幾つかあるのだが、中でも劇団・子供鉅人との出会いが、わたしの大阪観を大きく変えたのは間違いない。



最初に子供鉅人を観たのは大阪ではなく東京だった。原宿VACANTでの『バーニングスキン』(2011年)。両性具有(?)のジェニファー、ワニと格闘するカウボーイなど、へんてこなキャラクターが所狭しと暴れまわる。カーチェイスあり、虐殺あり、復活あり……めくるめく狂騒曲が、観客であるわたしの目を舞台に釘付けにした。パワフルだった。しかしただの力押しではなく、吹けば飛ぶような繊細な何か、言うなれば魔法のような力を感じたのだった。

すっかり魅了されたわたしは、大阪の芸術創造館でも『バーニングスキン』を観た。彼らを生んだ大阪の地に行ってみたかったのだと思う。子供鉅人の舞台にある猥雑さ、たくましさ、そして美しさを通して、わたしは大阪という都市に少しずつ近づいていくことになった。

翌年には、「CoRich舞台芸術まつり!2012」の審査員として、谷町6丁目にあった彼らの秘密基地ポコペンにも乗り込んだ。床が抜けないかと心配になるような築100年の長屋を、ほとんど破壊する勢いで暴れまわる彼らのプレイはやはり驚嘆に値するものだった(この作品『キッチンドライブ』は準グランプリを受賞)。その後も何度かポコペンには遊びに行った。バー営業もしているポコペンには、別に演劇とか知らんわという人も来ていたりして、行けば大体、おもろい人に会った。

ある朝ポコペンで、一緒にひとつ屋根の下で暮らしていた益山三兄弟が、ちょっと兄弟喧嘩みたいな微妙な空気になっていた。益山兄(貴司)はまあいつものことですよガハハという感じで笑っている。なんで朝のそんなシーンに居合わせたかというと、前の晩遅くまで呑んで、そのまま泊まらせてもらったのだった。二日酔い気味のおぼろげな頭で記憶を掘り起こしてみると、わたしは益山兄と杯を交わしながら、彼らの東京進出に反対したようである。東京は今さら「目指す」ような場所ではないよ。むしろこのまま関西に留まるほうが面白いんじゃないか。云々。

けれど、益山兄の意志は固かったし、それなりの事情や覚悟をもって東京への移住を決めたのだろう。素晴らしい看板女優のひとり小中太は東京には来ずに別の道を歩むことになったが、共に東京に出た劇団員は新しい環境の中でぐんぐん力をつけ、さらにはメンバーも増えたりなんかして、子供鉅人はその劇団としての体力を着々と拡大している。その作品は芸術性とエンターテインメント性のはざまを揺れ動き、常に毀誉褒貶に晒されるわけだが、長兄・益山貴司はやはりたくましく、座長として劇団を切り盛りしながら、みずからの作家としての腕も磨いている。例えば『マクベス』を下敷きにした『逐電100W・ロード100Mile(ヴァージン)』は、本家シェイクスピアのお株を奪うような見事な言葉遊びの世界を展開し、彼の「引き出しの奥の宇宙」を感じさせるものだった。

東京進出は2014年。あれから少し経ち、とりあえず東京にはだいぶ馴染んだように見える子供鉅人。というか、そもそも彼らは本当に「東京進出」なんてしたのだろうか? 大阪での公演は今も続けているし、大阪が彼らにとっての生まれ故郷であることに変わりはないだろう。どこに拠点を置くか、というのはアーティストにとって大きな問題だが、と同時に、ある拠点、というのは文字通り「点」でしかない。結局は、複数の点を結んだ星座のような空間が、そのアーティストが飛び回るフィールドということになるだろう。「東京」とか「大阪」とかいうのはあくまでも点であって、彼らの巨大な体躯には、ちょっと狭すぎるようにも見える。



さて、今回の『真夜中の虹』はどんな物語になるのだろうか。子供鉅人ならではのファンタジーが炸裂するのに期待したい。結成10周年記念公演を終え、劇団員だけで新たなスタートを切る今回の公演。わたしも初めて彼らに出会った時のような、新鮮な気持ちで観てみたい。

≫公演情報はコチラ

劇団子供鉅人

2005年、代表の益山貴司、寛司兄弟を中心に結成。「子供鉅人」とは、「子供のようで鉅人、鉅人のようで子供」の略。音楽劇や会話劇など、いくつかの方法論を駆使し、世界に埋没している「物語」を発掘するフリースタイル演劇集団。路地奥のふる長屋を根城にし、演劇のダイナミズムに添いながら夢や恐怖をモチーフに、奔放に広がる幻視的イメージを舞台空間へ自由自在に紡ぎ上げる。また、いわゆる演劇畑に根を生やしている劇団とは異なり、劇場のみならずカフェ、ギャラリー、ライブハウスなどで上演、共演したりとボーダーレスな活動を通して、無節操に演劇の可能性を喰い散らかしている。 ★公式サイトはこちら★