演劇最強論-ing

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【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2017/10)― 東京デスロック『ARE YOU HAPPY???~幸せ占う3本立て~』

ひとつだけ

2017.09.29


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?

2017年10月 藤原ちからの“ひとつだけ” 東京デスロック『ARE YOU HAPPY???~幸せ占う3本立て~』
2017/9/30[土]~10/14[土] 神奈川・STスポット
2017/12/15[金]~12/16[土] 埼玉・富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ マルチホール
※富士見公演は『ハッピーな日々』のみの上演となります。



 今からざっくり10年ほど前、かつては「ゼロ年代」とも呼ばれた2000年代半ばからの数年間は、東京の小劇場演劇が異様な熱を帯びた、魅惑的な変革期だった。気鋭の作り手たちが綺羅星のごとく次々と現れ、斬新なアイデアを作品にぶち込んでは、観客たちを魅了していったのである。劇団ごと、作家ごとに、作風もテーマもバラバラだったが、とはいえ全体として俯瞰すれば、そこには大きなうねりが起きていて、〈潮流〉とも呼べるような勢いを成していた。その根底には、たぶん、「もう誰かがつくった土俵にただ乗っかってるだけじゃ、演劇も自分も滅んでしまう!」といったような危機感が、人によって形こそ違えど、ゆるやかに、だが確かに、共有されていたのだと思う。

 わたしが『 演劇最強論 』(2013年刊行)を徳永京子氏と出版しようと考えたのも、ひとつには、この2000年代後半から東日本大震災直後までの〈潮流〉について記録しておかなくては、と感じたからである。単純な比較はできないが、1960年代のアングラ演劇勃興期にも匹敵するものとして、この〈潮流〉の時期は語り継ぐ価値がある。わたしはそう捉えている。

 その〈潮流〉の中でも、とりわけ多田淳之介(東京デスロック)は急先鋒だった。ていうか尖りまくっていた……。当時の彼は「演劇LOVE」というスローガンを提唱していたが、それは「演劇というジャンルをぼくは愛してます♥」みたいな素朴な信仰告白なんかでは全然なく、むしろ演劇の秘められたポテンシャルを探求し、それをこの現実世界へと接続していくために、「演劇」を根底から問い直そうとする意志の表明だったのだ(と思う)。そのためには既存の「演劇」の枠組みを破壊することも厭わない……そんな過激さを、作品から感じることもしばしばあった。しかし多田淳之介はただの破壊者ではなく、愛を持って何かを創造しようとしている……そう信じられたからこそ、決して少なくはない人々が、彼とその主宰する劇団・東京デスロックを支持してきたに違いない。



 語りたいことは山ほどあるけれど、今は次回公演に的を絞ろう。東京デスロックの最新公演『ARE YOU HAPPY???~幸せ占う3本立て~』は、その名の通り3本立て。うち2作はまさに前述の〈潮流〉の初期段階である2006年に初演されたもので、もう1本は新作になっている。

 『3人いる!』は、可笑しな不条理コメディ。オリジナル版はここ数年の東京デスロックとはかなり異なる作風だから、え、これがデスロック……?!と面食らう人もいるかもしれない。しかし初演の2006年は、様々な作家が現代口語演劇のアップデートを図ろうとしていた時期でもあった。この『3人いる!』もその動きのひとつだったとして、このコミカルな作劇の方向性にはまだまだ未開拓の領域があるのかもしれない。もう一度この作品を観て、あらためて考えてみたい。挑戦するのは若手の劇団員3人。フレッシュにはじける演技を期待したいですね。ちなみに、この初演の後くらいから「演出」に徹し始めた多田淳之介が、まだ自分で戯曲を書いていた時代の貴重な作品……!

 『再生』は言わずと知れた東京デスロックの代表作。小劇場変革期の〈潮流〉で生まれた数多ある傑作たちの中でも、ひときわ異彩を放った、例えばチェルフィッチュの『三月の5日間』と肩を並べうるような伝説的作品である。その後この『再生』は、2011年の震災後に『再/生』としてアップデートされ、さらにはアジア各地のダンサーたちとコラボレーションする『RE/PLAY dance edit.』(※)へと発展しているが、今回は2006年の初演バージョンをベースにしてリメイクされるらしい。構造は極めてシンプルだが、非常に複雑な感情のほとばしりまくっているこの作品。今、2017年の観客の前にどのように現れるんだろうか。前売りチケットはすでに完売とのことだが、うっかり買いそびれた人も、あきらめずに当日券をぜひ狙っていただきたい。(twitter=@tokyodeathlock)

 『ハッピーな日々』は、これまで『しあわせな日々』として知られてきたベケットの戯曲を、(日本におけるドラマトゥルクの第一人者である)長島確が新訳したもの。デスロックをその草創期から支え続けてきた怪優(?)佐山和泉と夏目慎也がこれに挑む。地面にずぶずぶ埋まっていく女……という話を、この2017年10月に日本という場所で観たらいったいどんな気分になるんだろう? タイムリーだ。いや、もちろん演劇はいつもタイムリーなわけだが、それにしてもあからさまにタイムリーだ。わたし(たち)にとって本当の希望はどこにあるんだろう……。真剣に考えなければいけない時期が、いい加減に、さすがに、来ているんじゃないか。

 「ARE YOU HAPPY ???」と訊かれて今「ハッピー!」と答えられる人は日本にどれだけいるのだろう。わたし自身どうなのか? 願わくば「幸せです!」と元気ハツラツに答えたい。


(※)『RE/PLAY dance edit.』京都公演は、11/25[土]~11/26[日]、京都・京都芸術センターにて上演。詳しくは >>コチラ


≫ 東京デスロック『ARE YOU HAPPY???~幸せ占う3本立て~』 公演情報は コチラ

東京デスロック

多田淳之介を中心に2001年より活動を開始。古典から現代戯曲、小説など様々な題材から現代演劇を創作する。 近年は現代社会を取り巻く問題を取り扱い、客席と舞台との区分けを無くし、観客を含めた事象をも作品化するなど、現在を生きる人々をフォーカスしたアクチュアルな劇空間を創造する。2009年より東京公演休止を宣言、2011年より「地域密着、拠点日本」を宣言し、各地域に根ざす劇場、カンパニーと共に地域での芸術活動を推し進める。2013年には4年ぶりに東京公演を再開。 2011年5月にはフランスジュヌヴィリエ国立演劇センターFestivalTJCCに招聘。2009年より韓国ソウルでの第12言語演劇スタジオとの合同公演を毎年行い、2014年には『가모메 カルメギ』が韓国で最も権威のある東亜演劇賞を受賞。演出の多田は初の外国人演出家による演出賞を受賞するなど、国内外問わず各地にて活動する。 ★公式サイトはこちら★