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【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2018/03)― 地域の物語2018 『生と性をめぐるささやかな冒険』発表会

ひとつだけ 連載コンテンツ

2018.03.14


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?

2018年3月 藤原ちからの“ひとつだけ” 地域の物語2018 『生と性をめぐるささやかな冒険』発表会
2018/03/18(日)11:00~、15:00~ 東京・シアタートラム



いつのまにか旅芸人みたいな人生になってるけど、それでもまあ今のところぼちぼち生きていけてるのは、喩えて言うなら、「演劇」をポケットに忍ばせているおかげかなと思う。

「古代ギリシャの起源から数えたらざっと2500年くらいの歴史がある」とか、「めっちゃ金のかかる舞台公演で借金がいくらになった」とか、そういう話を聞いて「演劇」の崇高さや重圧を感じる時もなくはないけど、案外、ポケットの中に入れる程度の気軽さで「演劇」と付き合ってもいいんじゃないか。少なくとも自分にはそういう生き方が向いている……。そう最初に思わせてくれたのは、たぶん、世田谷パブリックシアター学芸によるワークショップだった。



世田谷パブリックシアター学芸(以下、学芸)は、劇場組織の中で、主にワークショップ(WS)事業を担当している部署だ。わたしが学芸と出会ったのは、2012年に俳優のとみやまあゆみが「一緒に高校生向けのWSをやりませんか?」と誘ってくれたのが最初だった。それまで、演劇WSを受けた経験もほとんどなく、そもそも集団行動が嫌いで、身体を使うのも苦手だと思い込んでいたし、しかも密室でしょ? そんなん絶対ムリ……と思っていたにもかかわらず、つい魔が差して、オファーを受けてしまった。ところがいざやってみたら、まあこれが、面白い。未知の可能性をびんびん感じた。それで調子に乗って、3分くらいの短いパフォーマンスをつくったりもしたのだが、今思うと、あれが旅芸人としての人生の始まりだったのかもしれない。

そうやって、学芸のWSがきっかけで調子に乗って、何かに目覚めてしまった人は少なからずいるはずだ。

ともあれ、それから学芸とはしばしば一緒にお仕事をさせていただくようになった。そしていくつかのWSの現場に参加したり、それらの活動を報告する冊子「CarroMag.(キャロマグ)」を編集したりしながら、わたしは、学芸のスタッフが育んできた思想のようなものに触れてきた。

思想、というと大げさに聞こえるかもしれないが、スタッフはもちろん、出入りするWSのファシリテーター(進行役)たちにもその思想はゆるやかに共有されているように思う。参加者がただ楽しく満足して帰ればいい、とは、きっとスタッフもファシリテーターも思っていない。何度かWSに足を運んでいる参加者も、そうしたサービスを欲してはいないだろう。では彼らが何をやっているのかというと ──これはわたしなりの解釈だが── 演劇を「多種多様な人々が集まって一緒に何かやるプロセス」と捉えることではないだろうか。

「多種多様な人々」の中には、当然、障害者と見なされる人も、LGBTQの人も、外国にルーツを持つ人も、学校や社会に馴染めない人も含まれる。とはいえ、いわゆる「社会包摂」をお題目にそうしたマイノリティを社会でうまくやれるように取り込んでいくという発想は、今の学芸のWSには感じられない。仮になんらかの生き難さを感じている人がいたとしても、社会に適合可能な円滑なコミュニケーションの訓練をするわけではない。つまり、現状の社会に合わせていくわけではない。まずはその人がいられる場所をつくってみる。身体を動かしてみる。場合によっては話を聞く。何かを演じてみる。一緒に劇をつくってみる。……そうやって、その人が生きているこの社会そのものを問い直していく。もちろん、いつもうまくいくとはかぎらない。けれども、そうした試行錯誤をできる場は、今とても貴重だとわたしは思う。

地域の物語ワークショップ2017 『生と性をめぐるささやかな冒険』〈女性編〉発表会   撮影:鈴木真貴


特に今回紹介する「地域の物語」は、学芸のそうした思想が最もよく体現されたプログラムだ。世田谷パブリックシアターが開館した1997年から行われている「地域の物語」だが、近年は毎年テーマを定めて、参加者が、自分たちの体験をベースにいろんなことを話し合いながら最終的に劇をつくって発表するスタイルを採っている。例えば2013年は結婚、2014〜15年は介助・介護をテーマにしてきた。そして2016年からは「生と性をめぐるささやかな冒険」と題し、女として生きること、男として生きること……そうやって人生のいろんな局面において、人間ひとりひとりが直面しているできごとに向き合ってきた。

基本的には、ひとつの統一されたドラマ演劇をつくりあげるのではなく、バラバラなシーンの断片をつなぎ合わせていくのが彼らの得意とするスタイルだ。中には、実話を元にしたシリアスなエピソードも多いのだが、悲惨な物語がただ告白されているという印象にならないのは、WSを通じて何度も対話が繰り返されてきた、そのプロセスの痕跡を感じられるからだろうか。

昨年までは〈女性編〉〈男性編〉というふうに別々に発表会が設けられてきたが、今年2018年は〈セックスをめぐる冒険部〉〈男と子育てをめぐる冒険部〉〈女らしさ男らしさをめぐる冒険部〉と3つの部活を設定しながらも、発表会は合同で行われる。バックボーンの異なるバラバラな人たちが、どう、同じ舞台の上に立つのだろうか。

発表会は例年、満員御礼になるものの、事前受付が締め切られても当日入れる可能性は高いので、興味を抱いた人は諦めずにぜひ当日券にチャレンジしていただきたい。

そして観て何かしら感じたら、今度はぜひWSにも参加してみてほしい。人生、ちょっと変わるかもしれないし。


今年のワークショップの様子  撮影:世田谷パブリックシアター


≫ 地域の物語2018 『生と性をめぐるささやかな冒険』発表会の公演情報は コチラ

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