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本牧アートプロジェクト2015 藤原ちから×鳥山フキ インタビュー

インタビュー

2015.12.8


横浜・本牧エリアで開催される本牧アートプロジェクト。今年で3回目を迎えるこのプロジェクトに本年、プログラムディレクターを務める、藤原ちからさんと、公演を行う、ワワフラミンゴ主宰の鳥山フキさんにお話を伺いました。

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―まず、藤原さんにお聞きしたいのが、今回プログラムディレクターを務めるにあたってのコンセプトを教えていただけますか。

藤原 2日間、本牧の町そのものを劇場化します。横浜の南部にある本牧は、かつて大部分が米軍のベースキャンプとして接収されていたことにより、アメリカ文化輸入の最前線であった特殊な町です。現在はトンネルを抜けてバスで向かわなければならず、「陸の孤島」と揶揄されることもあります。そして、いわゆる劇場もありません。そういう土地でアートプロジェクトをやる以上、東京と同じようなスタイルでやるのはあまり意味がないなと感じてきました。
だから、すでに他で完成されている作品を、ただ本牧に持ってきて上演するというプロジェクトにはしたくなかったんです。この特殊な場所で何ができるのか、一緒に考えられるようなアーティストを呼びました。彼らは何度も本牧に足を運んだり、住み込んだりして、それぞれにこの町との関わり方を模索しています。ただ地域に密着して町の人に可愛がってもらえればそれでいいという単純な話でもなく、それぞれのやり方で、町の中に展開していますね。
できればお客さんには、ただ目当ての演目だけを観てすぐに帰るのではなくて、劇場化しているこの町をウロウロして、少しでも本牧を好きになって帰ってほしいと願っています。

―簡単に各演目も紹介していただけますか。

藤原 まずJKアニコチェ&多田淳之介の『GOVERNMENT』。JKはフィリピンからの招聘で、まだ29歳と若いのですが、実験的なフェスティバルを開催するなど、マニラの若いアーティストたちの兄貴分的な存在です。劇場の外に出て、カフェやプールやトイレや広場などで演劇を行い、様々な階層やコミュニティへのアクセスを試みています。
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一方の多田淳之介さんは、いわゆる物語のある演劇のみならず、ある場所に人々を集め、そこで対話や内省を促すような演劇を得意としてきました。きっとJKとは何か通じるものがあるだろうと思い、今回のコラボレーションお願いしました。ただし、世界各地を飛び回る二人が合流できる期間は今回、たったの4日間。このファースト・コンタクトで何が生まれるか、見届けに来てください。

内木里美『こどもディスコ』。内木さんは公募アーティストとして、およそ2ヶ月間、本牧のお家にホームステイして、滞在制作を行ってきました。「ディスコ」という名の通り踊るイベントですが、ワークショップで特訓した可愛いキッズダンサーたちがステップを教えてくれるはず。観てるだけでも結構ですが、よかったら一緒に踊ってください。また、本牧のいろんな人へのインタビューも行っているようで、それも作品に入ってきそうです。「1日パス」がなくても入場可能です(こども無料、大人300円)。
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【phot by bozzo】

石神夏希『ギブ・ミー・チョコレート!』。町の中に〈秘密結社〉をつくっています。ネットには情報がなく完全に口コミなので、誰がメンバーなのかは、基本的に本人と、影の総帥である石神さんしか知りません(笑)。この作品の参加者は、何らかの指示に従って町の中を歩き、〈秘密結社〉のメンバーに接触します。イメージとしては、ある場所で合言葉を言えば、メンバーに会える、という感じですね。怖いことはないので、ひとりでも、カップルでも、お子さん連れでも、ぜひ体験してみてください。
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武田力『踊り念仏』。事前に武田さんが警察に行ってある交渉をし、そこで得た情報をもとに「指示書」をつくります。参加者はこの「指示書」に従って、町に繰り出し、歩いていきます。特に「踊る」わけではないのですが、町がいきなり劇的に見えてくるような体験ができるはず。12日(土)の13時からACT1、16時からACT2があります。参加したい方は、「1日パス」を持ってその時間に本牧地区センターにいらしてください(会場が狭いので、先着順となります)。個人的には、傍観するより体験するほうが圧倒的にオススメ。各ACT終了後には参加者同士でフィードバックも行いますが、人によって異なる体験を話し合えて面白いはず。
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【phot by 青山裕企】

テラミチ健一朗『メリーゴーランドがやってきた!』。本牧のバス通りにあるせせらぎ公園に、メリーゴーランドが出現します。無料で乗れますよ。町を劇場化するアートプロジェクトの象徴的存在となりそうです。

そして、お待たせしました! 鳥山フキさんが主宰するワワフラミンゴの『本牧げんかん』は、20?30分ほどの短編演劇。間門という、その昔は海水浴場だったエリアにある、築80年の古民家カフェが会場です。初めてこの豆松カフェに行った時に、「ここで演劇やったら面白いだろうなあ」と思ってオーナーの渡辺妙子さんに話してみたら、「ちょっとやってみたいかも」っておっしゃってくれたんです。で、やるならワワフラミンゴだな、とその瞬間に思いついて。
勝手に思いついてごめんなさい(笑)。

―鳥山さん、豆松カフェで公演をというオファーがあった時ってどう思いました?

鳥山 カフェとかではこれまでもやってきたんですけど、最初に藤原さんがおっしゃっていた、外部の人が、公演を観に来て、帰って、という感じだけになったら嫌だなというのはありましたね。お話いただいたあとに、どういう形でやるのがいいのだろう、とは考えました。いつも通りにやるのがいいのか、「うちはこうだ!」って頑張った方がいいのか、とか。

―ワワフラミンゴは、こういったイベントに呼ばれることも増えてますよね。

鳥山 そうですね。でも今回は豆松カフェあっての企画と考えています。今回やる『本牧げんかん』は、4月に吉祥寺の民家でやった『げんかん』という演目をベースにしています。2/3くらいは、その『げんかん』を、残りの1/3を今回の新たな要素にしようと考えています。でもどうしようかなーと悩んでいて、さっきも言ったように、いつも通りがいいのか、どうなのかって。

―『げんかん』をベースにしようというのはすぐに思いついたんですか?

鳥山 わりとすぐに思いました。吉祥寺の民家も畳の部屋で、この豆松カフェも同じ畳の部屋なんですけど、雰囲気が全然違いますよね。豆松カフェは立派で歴史を感じるし、ふつうのおうちじゃないなって思いました。空間が全然違うし、置いてあるものや椅子なんかも違うから、どうしようって思っています。
あとやっぱり、今自分が思ってることを新たな要素として入れたいっていうのもあるんですよ。日頃思ってることや観たものを入れたいって。

藤原 最近のことですか?

鳥山 すごく最近のことです。実はこのあいだ、岡田利規さんの『God Bless Baseball』を観に行ったんですよ。それで面白かったから、野球の話を入れたいなって……

藤原 え?! そんな無茶な……(笑)

鳥山 やっぱりちょっと難しいですかねえ。なんか、頭がすごくいいなと思って。こんなに頭がいいって思われたいです。

藤原 (笑)。ちなみに『本牧げんかん』には物語やテーマはあるんですか? まさか野球の話ではないと思うんですけど。

鳥山 すでにある『げんかん』ベースの2/3には、そんなに物語はないんですよね。あまり物語にしないようにっていうふうには思ってて。何かしっとりしちゃうから。あまりしっとりしたくなんですよね。

藤原 ウェットにしたくない?

鳥山 そうですね。あまりウェットにはしたくないですね。

―今回、ワワフラミンゴを初めて観る方もいらっしゃるかと思います。

鳥山 「なんかおもしろいな」って思ってもらえたらいいなって思ってます。

藤原 それ、ほとんど何も言ってないに等しい!(笑)

鳥山 ……そんなに自分たちがやってることを説明できる感じじゃないんですよね。説明できた方がいいんじゃないかって思ったりすることもあるんですけどね。まずは観てもらって…。

藤原 確かにワワフラミンゴの作風を説明するのは難しいですよね。プロフィールに「エビ、カニ、ホッチキス、双子等、独自の興味関心」って書いてあるけど意味わからないですものね(笑)。僕はよく、安直かもしれないと思いつつも、「シュールな漫画みたい」って喩えてしまってます。

鳥山 漫画に喩えられることはたまにあって、自分でもそう思う時もあるんです。なんでだろうって考えた時に、やっぱり「時間」じゃないかって思ったんです。漫画は読み手の方で時間を操れたり、1つのコマの中にも時間の流れだったり、作者の意図とかが詰め込まれていると思うんですね。そのあたりが近いのかなって思うんです。時間は短いけど、その時間の中に、凝縮されたものが詰め込まれてるという。

藤原 情報の込められ方が特殊ですよね。僕はワワフラミンゴの公演を観た後、いつも脳みそが変な感じになるんですよ。例えばこれが時計で、あれが船の絵で、っていうふうに人間はふだん、言葉と認識を一致させて生きているじゃないですか。それがやわらかく崩れ去っちゃうというか。凝り固まってるものが、ほぐされるような感じがします。なのに癒し系って言葉では片づけたくない何かがあって。「タヌキに化かされた?!」みたいなことですかね? 登場人物は人間のフリをしたタヌキなのかもしれない。まあ、何はともあれいろんな人に観てほしいです。演劇とか観たことなかったけどワワフラからハマった……っていう流れもきっとありうると思う。

鳥山 豆松カフェまで来ること自体がひとつの体験になると思うんです。それを体験してもらいたいし、ワワフラミンゴとしては、マニアックでなかなか他にいないような役者が出ますので(笑)ぜひ笑って帰ってくれればいいなって思ってます。

―これまでも演劇最強論-ing「マンスリープレイバック」のコーナーでいくつか鳥山さんの作品を取り上げさせていただいているんですけど、傍から見てると、鳥山さんの作品を語ってる時って、その場がすごく幸せな空気になっていると感じるんですよね。

藤原 ああ、確かに! 他の演目を語る時はやっぱりどっかで批評家としてがんばらなくちゃ的な意味で肩に力が入っているのかもしれない。頭いいと思われたいのかもしれない(笑)。でもワワフラは単に思い出し語りをするのが幸せな感じになっちゃいますね……

鳥山 うれしいんですけど、なんか信用できないです(笑)。

藤原 でもほんとにそうなんですよ。ワワフラが世界に蔓延したら、もっと世の中は平和になるんじゃないかって思いますね。
さっき、「そこに行くまでを体験してほしい」ってお話がありましたけど、ちょっとしたピクニックか小旅行のつもりで遠征してきてほしいです。バスツアーが12日にあって、7500円はちょっと高いと思われるかもしれませんけど、ワワフラミンゴの公演も含めてあらゆる作品が観られますし(『ギブ・ミー・チョコレート!』はのぞく)、バスガイドとして、中野成樹+フランケンズの女優である北川麗、小泉真希、斎藤淳子が出演します。というかこのバスツアー自体を石神夏希さんが演出して、ひとつのツアーパフォーマンスになるはず。滅多には行かないような場所も周る予定なので、超オススメです!
このバスツアーに参加するもよし、「1日パス」を買ってゆっくりマイペースに観て回るもよし。お好みの方法で楽しんでいただければ幸いです。鳥山さんも含め、参加アーティストそれぞれに町との関わり方が違うので、そのあたりも感じながら。ぜひ遊びに来てください。

・本牧アートプロジェクトのウェブサイト
http://honmoku-art.jp/2015/

・「1日パス」は小学生以下は保護者同伴でお願いいたします。大人の方からのみ料金をいただきます。地元の方(本牧に在住・在勤、山手駅及び根岸駅の定期券をお持ちの方)は1000円引きの2500円となります。

≫本牧アートプロジェクト2015公演情報はコチラ
≫ワワフラミンゴ『本牧げんかん』公演情報はコチラ

藤原ちから Chikara Fujiwara

1977年、高知市生まれ。横浜を拠点にしつつも、国内外の各地を移動しながら、批評家またはアーティストとして、さらにはキュレーター、メンター、ドラマトゥルクとしても活動。「見えない壁」によって分断された世界を繋ごうと、ツアープロジェクト『演劇クエスト(ENGEKI QUEST)』を横浜、城崎、マニラ、デュッセルドルフ、安山、香港、東京、バンコクで創作。徳永京子との共著に『演劇最強論』(飛鳥新社、2013)がある。2017年度よりセゾン文化財団シニア・フェロー、文化庁東アジア文化交流使。2018年からの執筆原稿については、アートコレクティブorangcosongのメンバーである住吉山実里との対話を通して書かれている。