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<先月の1本>劇団不労社 第七回公演『BLOW & JOB』 文:私道かぴ

先月の1本

2022.07.21


良い舞台は終わったあとに始まる。強く長く記憶されることが、その作品を良作に成長させていく。けれども人間の記憶は、記録しないと薄れてしまう。「おもしろかった」や「受け入れられない」の瞬間沸騰を超えた思考と言葉を残すため、多くの舞台と接する書き手達に、前の月に観た中から特に書き残しておきたい1作を選んでもらった。

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「観れてしまう」暴力性のその先に


会場に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは舞台中心に広がる精巧なオフィスのセットだ。机やイスはどこかの会社で実際に使われていてもおかしくない代物で、資料の置かれ方や社員証をスキャンする機械に至るまで忠実に再現されている。
そのセットを取り囲むように設置された客席に座り、当日パンフレットを手にする。読み易いとは言えない淡い白黒の印刷物だった。よく見るとA4の紙にパワーポイントを印刷した仕様で、「プロジェクト予定表」「当日資料」などの文字が並んでいる。思わず「へえ~…」と声が漏れた。カラー印刷を節約する財政状況、「圧倒的パフォーマンス」等の薄っぺらな言葉の羅列、これから始まる公演の舞台になるであろう会社の、そこはかとないうさん臭さが開演前から演出されていた。

改めて舞台を見ると、地面に敷かれた緑とクリーム色のマットが目に鮮やかに飛び込んでくる。マットの端はぐにゃぐにゃといびつな形に切られ、客席の方に伸びていた。精巧なセットの中でこのマットだけがどこか浮いている。それはまるで、フィクションとノンフィクションの境目がぐにゃりと混ざり合った公演の存在自体を示しているようだった。

開演前のアナウンス後、やや誇張し過ぎなくらいの大きないびきが耳に入ってくる。会社に泊り込みで仕事をして朝まで眠りこけている社員、新井今鹿(荷車ケンシロウ)の存在から物語は始まった。この新井、眠っている間に清掃員の園龍二(松田義顕)に財布をすられたり、上司の力石正則(平川裕作)に乱暴に起こされて理不尽な要求をされたりと、かなり「可哀そうな人物」という印象を与える。観客の心情は徐々に「新井は弱者で、自分たちはこの人物に心を寄せていけば、一番【自分に近い所】で観劇できるのではないか」と期待を抱く。しかし、その新井でさえ、彼より後に入社したという女性社員・丸岡桃子(むらたちあき)に意図せず失礼な態度を取っていく。この辺りで観客は気づくのだ。「あれ、この物語にはもしかして、いわゆる【まとも】な人物は出てこないのではないか…?」と。そして、その予感は的中する。

その後も続々と癖の強い登場人物が現れ、会社の様々な問題が噴出していく。祖母の容態が悪く、最後に顔を見るため早退したいと願う社員に対し、仕事を置いて帰ることを許さない上司。上層部は、取引先のご機嫌を取るためなら部下に枕営業をさせることも厭わない。 劇はパワハラやセクハラの例を手を替え品を替え 観客の前に提示しながら、重苦しい空気を何度も作り出す。しかし、これが驚く程テンポよく展開するのである。このテンポのよさは、裏を返せば「観れてしまう」ということでもある。観客は暴力を見続けながら、どこか居心地の悪さを感じつつも目が離せなくなっていくのだ。
劇中ではしばしば「ジョーク!」という言葉が発される。過激な発言や本音らしき語りの後に出てくるこの言葉は、登場人物同士の会話を飛びぬけて、観客席に真っ直ぐ届く。この台詞を聞く度、観客は逐一「自分は笑えるのか?この状況を?」という疑問と向き合うことになる。

虚構と現実。笑いと居心地の悪さ。その巧みなバランス感覚を目の当たりにしながら、おそらく作家はとても丁寧にパワハラやセクハラの現場の心理を取材したのだろう、と思った。ハラスメントは時に、その言動自体よりも(もちろんそれにも傷つくが)むしろ「それを許容している場の空気」が精神を追い詰める。自分の上司が、同期が、ひいては職場全員が自分へのパワハラやセクハラを許容している事実。それを作・演出の西田悠哉は痛い程に、的確に舞台上に出現させていた。

終盤、社員の丸岡は、イスに座ったまま弾みをつけてマットの外側に飛び出し、会社を「外側から」見つめる。そして叫びとも嘆きとも聞こえるような高笑いを響かせ、演劇を終わらせるのだ。その後観客は、「圧倒的な暴力の中で、せめて誰かは救われてほしかった」というどこかすっきりしない思いを持ちながら、しかし結末にある種の誠実さも感じつつ席を立つことになる。私たちは、現実はそう綺麗に終わらないことを知っているからだ。

会場を出た後、後ろを歩いている観客の話し声が耳に入った。
「あんな会社いやだよねえ~」「あの女の人かわいそうだったね」
その言葉を聞いて、 モヤモヤしたものが湧き上がって来るのを感じた。そこではたと気づく。「かわいそう」という感想が出る客席で本当にいいのだろうか。
主催者は、今回の作品を「集団暴力シリーズ」と銘打っている。本当に暴力をふるっている集団は、誰なのか。その問題提起は、「創作でよかった~」とこの物語を消費してしまっている私たちにこそ向けられているのかもしれない。


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しどう・かぴ/1992年生まれ。作家、演出家。「安住の地」所属。人々の生きづらさに焦点を当てた会話劇や身体感覚を扱った作品を発表している。身体の記憶をテーマにした『丁寧なくらし』が第20回AAF戯曲賞最終候補に、動物の生と性を扱った『犬が死んだ、僕は父親になることにした』が令和3年度北海道戯曲賞最終候補に選出された。国際芸術祭あいちプレイベント「アーツチャレンジ2022」において映像作品『父親になったのはいつ? / When did you become a father?』が入選。


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【上演記録】
劇団不労社 第七回公演 KAVC FLAG COMPANY 2021-2022参加作品『BLOW & JOB』

撮影:肖藝凡

2022年6月3日(金)〜5日(日)
神戸アートビレッジセンター KAVCホール
作・演出=西田悠哉
出演:荷車ケンシロウ、むらたちあき、永淵大河(以上、劇団不労社)
河上由佳(満月動物園)、多田剛志(劇団公演中止)、電電虫子(冷凍うさぎ)、平川裕作(イースター企画)
松田義顕(劇団公演中止)、森岡拓磨(冷凍うさぎ)、吉田凪詐(コトリ会議)

劇団不労社公式サイトはこちら

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