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【連載】これから演劇を始める人のための演劇入門 ENTRANCE=EXIT, FOR STARTING THEATER ― 第1場 これは演劇ですか?Is this a theater?

演劇入門

2018.06.18


藤原ちからによる新連載。コンセプトについてはこちらをご覧ください。

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第1場 これは演劇ですか? Is this a theater?

 これから演劇(theater)を始めます。
 そう言ったものの、さて、どこから始めればいいのでしょうか。現代演劇は多様化していて、その入口も様々です。あなたはどの入口からでも入ることができます。わたしが示せるのはそのわずかな例にすぎません。ともあれ、始めてみましょう。

 わたしはつい最近、ソウルと上海で「都市とアート」あるいは「社会とパフォーマンス」をテーマにしたいくつかのシンポジウムに参加し、講演やプレゼンテーションを行いました。ほぼ同時期に似たようなテーマの会議が各地で開催されていたのは興味深い事実です。いずれも、劇場や美術館の外で行われる現代演劇やアートの事例が紹介されていました。

 「劇場空間の外の演劇」。なぜそれが必要とされているのか? これは世界的な時流かもしれません。日本においても特にこの数年で、「劇場空間の外の演劇」に対する認知度は高まっています。

 劇場空間の定番は、ブラックボックス(黒い壁に囲まれた空間)です。これは魔術的な空間です。アーティストはこの密室における暗闇の中で、照明や音響や舞台美術を駆使し、観客に幻想を見せることができます。観客は、自分たちの日常とは異なる世界に入り、劇が終わると、また自分たちの日常へと戻っていきます。日常(ordinary life)→非日常(extraordinary world)→日常(ordinary life)。これは演劇におけるひとつの美しい典型的な形式です。

 ところが、ブラックボックス以外の場所では、こうした魔術を生み出すことは容易ではありません。ホワイトキューブ(白い壁に囲まれた空間)のギャラリーではどうでしょうか? カフェではどうでしょう? 倉庫や、古い家では? 老人ホームでは? あるいは、公園では?

 演劇は今やそうした様々な場所で行われるようになっています。おそらく、この「外」へと向かう潮流が魅力的であり、かつ、この世界に存在しているいろんな種類の社会において必要とされてもいるからでしょう。その理由、背景、そして多様なパターンについては、いつか別の機会に考えることにしましょう。ここでは、「演劇」と呼ばれてきた概念が拡張し、劇場空間の外にはみ出している、という事実だけを押さえておきます。

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 さて、こうした「演劇」概念の拡張を、わたしは基本的には歓迎しています。なぜならこうした拡張が多様性をもたらし、アーティストや観客の発想をより豊かで自由なものにしうるからです。演劇にはまだまだ未知の可能性があります。わたしは、演劇がどのように変身し、この世界とどう切り結んでいくかに興味があります。

 しかし、「演劇」の概念があまりに拡張しすぎると、この世に起きるすべての出来事を「演劇」と見なしてしまいかねません。それは思考の怠慢であり、人類が「演劇」の名の下に培ってきた知恵を軽視することにもなります。では、「演劇」かどうかの基準線を引くことはできるのでしょうか? 「演劇」か否かを分かつことのできる線を。

 ちょっと実験をしてみましょう。

 次の文章を読んで、「はい」か「いいえ」かを答え、その理由を140字以内で書きなさい。(SNSに答えを投稿する場合、ハッシュタグは #korekara_Q


【問1】
 あなたは、マンションの自分の部屋のテラスに出ます。あなたはそこで、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の一場面を大きな声で朗読します。「おお、ロミオ……!」……さて、これは演劇ですか?

【問2】
 あなたは路上でリンゴを売っています。ただし代金はお金とはかぎりません。それはモノでもいいし、歌や踊りや物語を披露するのでも構いません。いろんな人がやって来て、リンゴと引き換えにパフォーマンスをしていきます。そして周囲には、それを見物している人たちもいます。……さて、これは演劇ですか?

【問3】
 あなたは家族から「うるさい、黙ってろ!」と怒られました。そこであなたはキッチンに何冊かのメモ帳を置き、最初のページにこう書きます。「今から3日間、私はすべての会話を筆談で行います。3日間の沈黙の後、私が最初に喋る声を聞いてください。」……さて、これは演劇ですか?



 これらの問いは、あくまでも思考実験です。「これは演劇だ」「これは演劇ではない」と明確な基準を引くことは難しいし、そのジャッジにはたぶん意味がありません。けれども、これらの問いを考えるプロセスにおいて、「演劇」が生まれる瞬間を発見できるかもしれません。その瞬間への感性を研ぎ澄ませてみましょう。それは、「演劇」についての古い固定観念を覆すものになるかもしれません。

 もちろん、例に挙げた3つの問いに、唯一の正解なんてものは存在しません。ただ、あなたはそれを考えることができます。そしてその思考のプロセスを他人と交わし合うこともできます。あなた自身の「演劇」を探してみてください。


上海、iPANDAで行われた対話。住吉山実里、筆者、石神夏希、宮武亜季が参加。撮影:後井隆伸

藤原ちから Chikara Fujiwara

1977年高知市生まれ。BricolaQ主宰。横浜を拠点にしつつも、国内外の各地を移動しながら、批評家またはアーティストとして、さらにはキュレーター、メンター、ドラマトゥルクとしても活動。「壁」によって分断された世界を繋ごうと、『演劇クエスト』を横浜、城崎、マニラ、デュッセルドルフ、安山で創作。また「港」と「人の移動」に興味を持ち、パフォーマンス『Woman In A Port』をマニラで上演。徳永京子との共著に『演劇最強論』(飛鳥新社,2013)がある。2017年度よりセゾン文化財団シニア・フェロー。東アジア文化交流使。