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【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2015/9)―範宙遊泳『幼女Xの人生で一番楽しい数時間』

ひとつだけ

2015.08.27


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?


2015年9月 藤原ちからの“ひとつだけ” 範宙遊泳『幼女Xの人生で一番楽しい数時間』

幼女チラシ裏表


 「幼女X」は範宙遊泳を海外へと進出させたマスターピースであり、プロジェクターで文字を投射する現在のスタイルを確立し、その名を知らしめた作品である。たとえば下記映像の冒頭5分ほどをご覧いただければ、そのスタイルについて感覚的につかんでいただけるかと思う。

【参考映像】範宙遊泳『さよなら日本-瞑想のまま眠りたい-』

 

 2年前、新宿の小さなギャラリーで「幼女X」の初演を観た時、本当に驚いた。範宙遊泳の舞台は何作か続けて観ていたのだが、この作品に至って作・演出の山本卓卓は、それまでの照れや韜晦のようなものを消し去り、ついにその本性をあらわしたのである。常識や倫理を超え、感情を揺さぶっては消えていく文字の前で、2人の俳優のシルエットが蠢いている。残酷さとやさしさを併せ持つ怪物が産声をあげた、哀しくも感動的な瞬間であった。

 日本の現代演劇を象徴する作品のひとつである。もしもあなたがまだ「幼女X」を観ていないのであれば(*)、この機会にぜひ目撃してほしい。特に、今回ツアーをする札幌と名古屋の観客(演劇の作り手たちを含む)には熱烈にオススメしたい。たった2人の俳優とプロジェクターでこれだけのことができるのだ、ということを、ぜひとも体験していただければと思う。

 ちなみに『幼女Xの人生で一番楽しい数時間』は2本立てであり、「幼女X」のほかに「楽しい時間」も上演される。実は2年前に山本卓卓自身が演じた際には(当時のわたしには)面白みを感じられなかったのだが、今回は福原冠を俳優として内容も刷新されるらしく、「範宙遊泳の活動の総決算であり、新しい一歩を踏み出す新作」と謳い文句も気合入ってるので、期待しましょう!

*TPAM2015で上演されたバージョンは、タイのカンパニーとのコラボレーションのための実験作であり、ほぼ原形をとどめない別の作品になっていた。

■日程・会場:
2015/9/2[水]~7[月] 東京・こまばアゴラ劇場
2015/9/11[金]~12[土] 北海道・生活支援型文化施設コンカリーニョ
2015/10/1[木]~3[土]  愛知・愛知芸術劇場小ホール(愛知芸術センターB1)

≫公演情報はこちら

範宙遊泳

2007年より、東京を拠点に海外での公演も行う演劇集団。 すべての脚本と演出を山本卓卓が手がける。現実と物語の境界をみつめ、その行き来によりそれらの所在位置を問い直す。 生と死、感覚と言葉、集団社会、家族、など物語のクリエイションはその都度興味を持った対象からスタートし、より遠くを目指し普遍的な「問い」へアクセスしてゆく。 近年は舞台上に投写した文字・写真・色・光・影などの要素と俳優を組み合わせた独自の演出と、観客の倫理観を揺さぶる強度ある脚本で、日本国内のみならずアジア諸国からも注目を集め、マレーシア、タイ、インド、中国、シンガポール、ニューヨークで公演や共同制作も行う。 『幼女X』でBangkok Theatre Festival 2014 最優秀脚本賞と最優秀作品賞を受賞。 『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞。 ★公式サイトはこちら★